◆10.朝目が覚めたら（７×６的、７視点）

モモサキトモル様のHeaven's様から拝借した「風邪ひきで10のお題」、最後のリサイクルはチョコ…もとい兵士さん。
相変わらずの贔屓っぷりですが、元々彼の存在が拙宅を作る原因ともなったので、これも仕方ないと諦めていただきたく思います。
…駄目じゃん、自分。

10.朝目が覚めたら

真夜中の体調不良というものは、他者には案外言えないもので。
　　　　　　　　　　　　

　　　＊

（……あつ、い……）
急激な口喝感を覚え、意識が覚醒すると、体中に嫌な汗。
上半身を起こすと、途端にぐらりと世界が揺れた。
（地震？違う。俺が……揺れて、る）
完璧に、体調に異常を来したらしい。
舌打ちするも、とりあえず解熱剤でも服用しなければ、と霞む意識で思い当たって。
立ち上がろうとしたが、全身に力が入らない。
（くっ……。寝ているしか、ない、か……）
皆が寝静まった真夜中に、声を上げるのも躊躇われ、俺は再びベッドに身体を預けた。
汗で濡れて湿ったシーツの感触が、冷やりとして気持ちが悪い。
（……ティ、な……）
何故か思い浮かんだ、仲間の少女の名前を唇だけで辿り、俺の意識は遠のいた。

 

───また、意識が浮上する。
しかし自分を包むじっとり湿った感触は、既にない。
「……う」
「あ、クラウドが起きたぜ」
「起こしてしまったか。仕方ないな、濡れた服のままいさせるのは良くない」
聞き慣れた仲間の声がして、目を開けると、そこには夜着のままのジタンとスコール。
「悪かったなクラウド、目覚まさせちまって。でもさ、びしょびしょの服のまんまも気持ち悪いだろ？」
「服とシーツは俺たちが交換した」
「そ、うか」
自分の声が掠れているのを自覚しつつ、頷く。
確かに洗い立てのシーツは身体に心地良く、深呼吸をして身を預けた。
それを見届けて安心したのか、ジタンとスコールは足音も静かに退室した。
「んじゃ、俺らはこれで。大事にしろよな、クラウド」
「後は彼女に任せる」

「……かの、じょ？」
その代名詞に該当する仲間は、たったひとり。
「クラウド、大丈夫？」
「……ティナ」
いつの間に来たのか、夜着にふんわりとストールを羽織ったティナが、そうっと俺の額に手を当てた。
「やっぱり熱いわね。お水、飲めそう？」
「な、ぜ」
どうして気付いたのか、という俺の問いを片言で理解したらしく、ティナは微笑む。
「何となくだけど、聞こえたの。クラウドが、私の名前を呼んでくれたのが」
私が朝までついてるから大丈夫よ、と教えてくれる。
「……そう、か」
俺が頷くのを確認してから、ティナは再度水が飲めるか、と尋ねてきた。
しかし俺は、身体を起こす事すら億劫で、目を伏せた。
ティナはそんな俺をしばし見つめ、そっと耳元に囁く。

──あの……く、口移しなら、飲めそう？──

夜目にもわかる程、頬を染めた少女の唇を見つめ。
唇だけで『頼む』と伝えた俺の顔は、きっと綻んでいただろう。

　　　＊

朝、目が覚めたら。
君に「おはよう」と告げられるだろうか。

そうしたら、『口移し』じゃない触れ方をしてみよう。

君は、逃げ出さないでくれるだろうか？